作者は、明治~大正~昭和を東京で美しく生きた、希有な女性です。
与謝野晶子と同じ年に生まれ、短歌歌集出版、アイルランド文学の翻訳、随筆や小説を書いています。
しかし「働く女性」というより、官僚の妻として子供たちをエリートに育て上げ、あくまで家庭人の枠の中で文才を熟成させた女性でした。
「赤とピンクの世界」は、あるおばあさんが行方不明になり、ひと月後に少し離れた町の井戸で身投げしていたのが見つかるという物語です。
彼女は一見恵まれた身上に思われるが、そのことがかえって生きる意欲をなくすことになってしまったと作者は考えます。
もしおばあさんが貧乏で、生活の為に日々をやりくりしていたらこんなことにならなかったはずだ、
欲や得があるうちは、人間は死ねないものだろうと推測するのです。
しかし作者は赤貧というほどの貧乏を知らないからそんなことを考える余裕があるのかもしれない、
自分の知っている貧乏はピンク色くらいのもので、我慢の余地を残しているレベルだから希望も持つことができないわけではない。
そして…。
この作品は10分くらいで朗読できます。
明治、大正~昭和初期の風物誌的描写を楽しみながら読める、エッセイです。